江戸時代には旧山陽道沿いの本陣・脇本陣がある宿場町として栄え、さらにこの道沿いを川に下れば片上湾。北前船が寄港する海上交通の要であったこの港は、備前藩の米の集積地であっただけではなく、室町時代には備前焼を送り出すなど、岡山の文化を世に広める貴重な役割を果たしてきました。備前焼が茶の湯を好んだ秀吉の目にとまったのも片上港あればこそ・・・も、決して過言ではないでしょう。
片上の歴史にはこうした水陸の好条件がベースにあり、東備地区が耐火煉瓦の世界的産地として発展したことにも影響を受け、さらなる繁栄を遂げます。片上は工場で働く人たちの生活拠点としてにぎわい、片上商店街は活気あふれる一時代が到来。その最盛期には現在の3、4倍の商店主がいたといいますから、約200もの店が軒を連ねていたことになります。店こそ構えなかったものの、伊部で作られた備前焼を流通させる陶商など、文化発展に貢献した人々の存在もありました。往時を知る人からこぼれてくるのは、美空ひばりや島倉千代子など昭和の大スターを招いたステージや、バーナードリーチ、魯山人、柴田錬三郎ら文化人の逗留などの華やかなエピソードの数々。豊かな繁栄の中で文化・芸術が花開き、人々の中にしっかりと根付いてきたまち。それが片上であり、今も商店街の随所にその足跡が隠されています。
そんな歴史を持つ片上商店街だからこそ、古きを礎に新たな文化の発信地としての可能性があるのではないか。新たな時代を拓くきっかけになればという想いを込めて、私たちは今、ひとつの企画を立ち上げました。わずかな会期ではありますが、アーティストたちと手を携えてしずかな街並みに活気を呼び戻したい。新しい文化の起点として、片上から発信してまいります。
昭和初め頃の片上港(守時喜三郎 撮影)
片上鉄道開通始発列車(守時喜三郎 撮影)
おしょろ(お精霊の御勧請)
片上の銭湯「曙湯」